前蛹暗色タイプ胸部のアップ
蛹化前の前蛹の位置
羽化直後の♀のアップ
暗色タイプ胸部のアップ 上4齢、下5齢
はじめに このレポート内容は実験結果からの証明ではありません。正確な結果を導くには照度計や温・湿度計をはじめ匂度?計など計測器さらには実験環境も必要でしょう。多数の検体と時間もいりますので、アマチュアの私にはその設備もスキルもありません。したがってアゲハ(Papilio)属ミヤマカラスアゲハの飼育記録からの浅知恵の推論ですのでほんの参考例としてお読みいただきたい。
蛹色の決定環境には古い記憶ですが、匂い度、表面平滑度、湾曲度、温度、湿度の5要素があると読んだことがあります。また、最近見たwebのアゲハ(ナミアゲハ)報文では照度(ルクス)も要因となるようですがここでは要素としては除外しています。なお、webなどでもよく目にする環境色(色相、明度)によるは蛹色の決定には実験の結果から無関係となっています。
蛹の色は保護色として機能するための手段となるのが前提なので、ここでは蛹色の決定環境5要素で褐色型の出現条件を推察してみる。褐色蛹はホルモンの放出で起こることがわかっています。5齢初期から脳で作られ前胸神経節に蓄えてあるそうです。前蛹時に5要素のうち、3要素以上を満たせばホルモンを放出し褐色に、それ以下であればホルモンの放出はなく緑色になる。放出の有無は顕微鏡下で確認できるようです。
ホルモン放出要件のための「しきい値(作用するエネルギーの最大または最小値)」を「-」としてみると、
1.匂い度
匂い(葉緑素臭)が強ければ周りの環境は緑で+、弱ければ褐色で-
2.表面平滑度
葉、若枝や壁面など滑らかな表面なら+、木の幹や石など粗い表面なら-
3.湾曲度
蛹化の位置が小枝など半径が小さければ+、半径の大きい太枝や幹または葉や壁の平面なら-
4.温度
高ければ+、低ければ-
5.湿度
高ければ+、低ければ-
を条件として
褐色型飼育蛹のホルモン放出要件「しきい値」+-を推察すると
匂い度(強い)+
表面平滑度(滑らか)+
湾曲度(平面で大きい)-
温度(低い)-
湿度(低い)-
となり「-3」で褐色型になったと推察できる。
室内は空調なしで時期的に温度、湿度は高めの時が多く褐色型が1頭だけと少なかったと思われる。
今回のミヤマカラスアゲハ飼育では蛹化12頭中、褐色型は1頭のみで11頭が緑色型となった。
空調していない室内の同一環境下で褐色型の出現には5要素のうち、匂い度、表面平滑度、湾曲度がほぼ同一として、温度、湿度の変化が影響したかと思われる。なお、食樹には1齢から主に「コクサギ」を用いた。
※参考までにアゲハチョウ科のなかでも属や種によって蛹化の環境(場所)に違いがあるので、蛹色の決定環境要件は変化すると考えられます。アゲハ(Papilio)属の蛹は葉や枝、幹あるいは壁面など多様な環境で蛹化しますが、例えばアオスジアゲハ(Graphium)属のアオスジアゲハではおもに常緑のクスノキ科の葉裏で蛹化します。したがって匂い度、表面平滑度、湾曲度には単一性があるでしょうから要因から除外できると考えられます。実験の結果、黄緑から赤褐色まで4型の色が出るようでその要因は光、すなわち背面側と葉の透過光を受ける腹面側の照度差によるもののようです。野外では常緑樹のため緑葉が多いのでほとんどが緑色系の蛹になるようですが紅葉した葉裏では赤褐色が出ることもあるようです。これは葉色ではなく光の透過率によるようです。