stage
   

5451

前蛹暗色タイプ胸部のアップ

ミヤマカラスアゲハの卵から成虫までの全ステージ


2017年5月10日に奈良県産のミヤマカラスアゲハ春型の母蝶に産卵させた100卵以上の中から17個を預かり飼育することとなり、全卵孵化したが羽化に至ったのは12頭であった。
全ステージを撮影で記録できたので紹介したいと思う。

飼育環境 室内で空調はなし。 飼育容器 3〜4齢までは蓋付きプラケース3個に空気孔を開け、4〜5齢にはガラス蓋付き水槽1個を用意した。 食樹 キハダ、カラスザンショウも少量与えたがすぐに入手困難となり、主にコクサギを与えたが成長に問題はなく、枝付きのままビニール袋に入れ密閉しておけば冷蔵庫で1ヵ月以上は保存できるので管理が楽である。

卵 白色に不定形の褐色斑が出現、産卵植物はキハダ。
幼虫 1〜3齢で腹部中央に白帯、背面の突起は1齢で長く3齢で短い。体色は1〜2齢で黒褐色、3齢で茶褐色から緑褐色。4齢に達すると体色や斑紋に大きな変化が現れ写真のように2つのタイプが出現する。
蛹 前蛹から1日後に最後の脱皮で蛹となる。飼育下での蛹化は12頭のうち8頭がガラス面コーナー付近、2頭がプラスチックの黒枠、2頭が食樹の葉裏であった。
羽化 羽化の時刻は未明から早朝の場合が多く、蛹から全身が抜けるのに1分足らず、10分ほどで翅も伸びきるのでタイミングよく瞬間を観察し撮影するのは至難である。夏型の飼育期間はおよそ卵期1週間、幼虫期・蛹期がそれぞれ2週間で羽化までの全幼生期は5週間となった。
youka
   

5501

蛹化前の前蛹の位置

ミヤマカラスアゲハの蛹化


6月9日午前に前蛹から蛹になる瞬間を運良く観察できた。体色が黄色味を帯びてきていたので蛹化間近の兆候と思いカメラをセットした。

1〜3の画像は前日前蛹の様子である。
9:41頃から胸部が割れ始め第1腹節の黒帯も後退し始め(画像6)3分程で脱皮が完了し、尾端の脱皮殻を落とし(個体によっては落ちない場合もある)やがて静止する(画像11)さらに2時間程度で体型を整えつつ(画像12)体色も緑色となり、蛹の完成形(画像13)となる。


uka
   

5720

羽化直後の♀のアップ

ミヤマカラスアゲハの羽化


6月19日早朝、待ち望んだ羽化の撮影チャンスが巡ってきた。葉裏で蛹化した蛹に羽化の兆候があったので撮影しやすいようにコクサギの周りの葉を数枚切り落とし、三脚にカメラをセット中に突然羽化が始まってしまった。あわてて連続でシャッターを押して撮影したのが上の画像である。

蛹から脱するのに40秒程、翅が伸長するまでおよそ10分程のドラマであった。


color
   

5292

暗色タイプ胸部のアップ 上4齢、下5齢

5423

ミヤマカラスアゲハの体色・斑紋の変化


ミヤマカラスアゲハの幼虫期で1齢〜3齢までの体色は黒褐色から緑褐色で個体に大きな差は見られない。4齢になると画像のように体色と斑紋の濃淡が違う2タイプが出現する。終齢(5齢)・前蛹はでは斑紋配列は同様だがその濃淡に違いのある2タイプがある。
蛹では黄緑色と褐色2タイプがある。黄緑色では色味に個体差はほとんど認められない。褐色タイプは今回の飼育では1頭だけの出現なので比較はできなかった。蛹の体色については後述する。
成虫では野外と同様に翅色、斑紋に画像のような多彩な型が出現した。


アゲハ(Papilio)属の蛹色について

はじめに このレポート内容は実験結果からの証明ではありません。正確な結果を導くには照度計や温・湿度計をはじめ匂度?計など計測器さらには実験環境も必要でしょう。多数の検体と時間もいりますので、アマチュアの私にはその設備もスキルもありません。したがってアゲハ(Papilio)属ミヤマカラスアゲハの飼育記録からの浅知恵の推論ですのでほんの参考例としてお読みいただきたい。

蛹色の決定環境には古い記憶ですが、匂い度、表面平滑度、湾曲度、温度、湿度の5要素があると読んだことがあります。また、最近見たwebのアゲハ(ナミアゲハ)報文では照度(ルクス)も要因となるようですがここでは要素としては除外しています。なお、webなどでもよく目にする環境色(色相、明度)によるは蛹色の決定には実験の結果から無関係となっています。

蛹の色は保護色として機能するための手段となるのが前提なので、ここでは蛹色の決定環境5要素で褐色型の出現条件を推察してみる。褐色蛹はホルモンの放出で起こることがわかっています。5齢初期から脳で作られ前胸神経節に蓄えてあるそうです。前蛹時に5要素のうち、3要素以上を満たせばホルモンを放出し褐色に、それ以下であればホルモンの放出はなく緑色になる。放出の有無は顕微鏡下で確認できるようです。

ホルモン放出要件のための「しきい値(作用するエネルギーの最大または最小値)」を「-」としてみると、
1.匂い度
  匂い(葉緑素臭)が強ければ周りの環境は緑で+、弱ければ褐色で-
2.表面平滑度
  葉、若枝や壁面など滑らかな表面なら+、木の幹や石など粗い表面なら-
3.湾曲度
  蛹化の位置が小枝など半径が小さければ+、半径の大きい太枝や幹または葉や壁の平面なら-
4.温度
  高ければ+、低ければ-
5.湿度
  高ければ+、低ければ-

を条件として
褐色型飼育蛹のホルモン放出要件「しきい値」+-を推察すると

匂い度(強い)+
表面平滑度(滑らか)+
湾曲度(平面で大きい)-
温度(低い)-
湿度(低い)-

となり「-3」で褐色型になったと推察できる。
室内は空調なしで時期的に温度、湿度は高めの時が多く褐色型が1頭だけと少なかったと思われる。

今回のミヤマカラスアゲハ飼育では蛹化12頭中、褐色型は1頭のみで11頭が緑色型となった。
空調していない室内の同一環境下で褐色型の出現には5要素のうち、匂い度、表面平滑度、湾曲度がほぼ同一として、温度、湿度の変化が影響したかと思われる。なお、食樹には1齢から主に「コクサギ」を用いた。

※参考までにアゲハチョウ科のなかでも属や種によって蛹化の環境(場所)に違いがあるので、蛹色の決定環境要件は変化すると考えられます。アゲハ(Papilio)属の蛹は葉や枝、幹あるいは壁面など多様な環境で蛹化しますが、例えばアオスジアゲハ(Graphium)属のアオスジアゲハではおもに常緑のクスノキ科の葉裏で蛹化します。したがって匂い度、表面平滑度、湾曲度には単一性があるでしょうから要因から除外できると考えられます。実験の結果、黄緑から赤褐色まで4型の色が出るようでその要因は光、すなわち背面側と葉の透過光を受ける腹面側の照度差によるもののようです。野外では常緑樹のため緑葉が多いのでほとんどが緑色系の蛹になるようですが紅葉した葉裏では赤褐色が出ることもあるようです。これは葉色ではなく光の透過率によるようです。